しこふんじゃった

1教立大学
伝統を感じさせる建物。落着いたたたずまいを見せるキャンパス。マリア像の存在がキリスト教系の大学であることを示している。ある建物から、低い声の流暢なフランス語が間こえてくる。

2同・階段教室
声の主は社会学部教授,穴山である。疎らな学生相手に「比較文化論」の講義をしている。
穴山「へたなフランス語で申し訳ないが、今のはジャン,コクトーの「MON PREMIER VOYAGE」の中の相撲についての一節だ。コクトーは世界一周旅行の途中で、日本に立ち寄り相撲を見た。彼を国技館に案内したのが堀口大学だ。堀口大学はコクトーの文章をこんな風に訳している。『力士たちは、桃色の若い巨人で…』」

古びた建物。

3同,相撲部道場・中
穴山の声「シクスティン礼拝堂の天井画から抜け出して来た類稀な人種のように思える……」
俵の擦り切れた土俵を薄汚れた壁が取り囲んでいる暗くじめじめした空間に人の気配はない。朽ち果てる寸前の神棚。埃にまみれた数々の表彰状。光りを失ったトロフィーやカップを飾ってある曇ったガラスケース。優勝メンバーの黄ばんだ記念写真。そのどれもが相撲部の過去の栄光と現在の没落ぶりを表していた。
穴山の声「…或る者は、伝来の訓練によって巨大な腹と成熟しきった婦人の乳房とを見せている。いずれのタイプの力士もまげを戴いてかわいらしい女性的な相貌をしている……」
台所には大きな鍋や釜がほったらかしにされ、今では使っていないことが分かる。大正時代からの全ての相撲部員の名札が掛けられた古ぼけた板が入り口の横にある。○・Bの札は昭和五十年以降殆ど掛かっていない。現役部員の札はたった一枚である。
『青木富夫』の字だけが赤い。
穴山の声「不動の平衡が出来上がる。やがて足が絡み、帯と肉との間に指がもぐり込み、まわしのさがりが逆立ち、筋肉が膨れ上がり、足が土俵に根を下ろし、血が皮膚にのぼり、土俵一面を薄挑色に染めだす」
朽ち呆てた土俵に
メインタイトル『シコふんじゃった。』

4同・キャンパス
『シーズンスポーツ愛好会主催・沖縄スキューバーツアー受付開始』の立て看板その横には小さな机と椅子が並べられている。
新入生らしき女の子・松田桃子に事情を説明している学生・山本秋平。
秋平「シーズンスポーツ愛好会、略してシースポっていうのは、春秋テニス夏サーフィン、冬はスキーでタマにはゴルフ・スキューバー・ボーリング、とにかくいろんなスポーツを思いっきり楽しもうっていうサークルなわけ」
横から口を挟む後輩の次郎。
次郎「そんでこの沖縄スキューバーツアーっていうのは、メンバーだけじゃなくて、一般学生にも楽しんでもらおうって」
さらに横から口を挟む後輩の康夫。
康夫「つまりねっ、シースポっていうのはただのオシャレなスポーツクラブじゃなくて自分でツアーの企画を立てたり、イベントの企画なんかもできるから結構面白いんだ」
受付には小林久美、鈴木紗織の4年生コンビ。
久美「レポーターか。とりあえずテレビ局でも行ってみたら」
紗織「うちの大学の先輩、み−んな軽−いアナウンサーだからな−。アテになんのかな。久美決まった?」
久美「まだ」
秋平「オレ、決まり」
紗織「どこ?」
秋平「一流企業とだけお伝えしておきましょう」
久美「どうせ伯父さんのコネじやない」
秋平「なんで知ってんの?」
久美、キャンパスの奥の方から歩いてくるアメフトのユニフォームを着た男を見る。
久美「冷蔵庫に聞いたもん」
男は冷蔵庫とあだ名されるアメフト部員堀野。
冷蔵庫はチアガールに囲まれている。
キャンパスの奥の方には気が付くか付かない程度に浴衣姿の男(青木富夫)が小さな机の座っているのが見える。
秋平「相変わらず口の軽い奴だな」
久美「内の大学出てそんなとこ行ったって入ってから苦労するだけよ」
紗織「ねえ、そんなとこって、どこよ?どこに決まったの?」
久美「聞かない方が幸せだって。もし聞いたら呪い殺したくなるから。あ、そうだ、ねえ研究室行った?」
秋平「なんで」
久美「たまには自分の学部の掲示板くらい見なさいよね」

5教立大学比較文化研究室・廊下
歴史の重みを感じさせる、静かで厳かな、アカデミックなムードが漂う階段を目的の部屋を探しながら上ってくる山本秋平。「比較文化研究室」の名札が掛かった研究室のドアをノックする。

6同,中
入ってくる秋平。
大きな窓から陽が差し込んでいる。室内にもまたアカデミックなムードが漂っていた。頭に手拭を巻いて床を磨いている穴山と隅の机で調べ物をしている女がいる。
秋平「(室内を見渡して)あ、あのー、社会学科の山本ですが」
穴山「え?」
秋平「あなやまきょーじゅ…(探るように)いらっしやいますか?」
女、席を立つと大さな本棚に歩いて行き、脚立に上って本を探しはじめる。秋平と男はスラリと伸びた脚にしばらく見とれて、
穴山「はじめまして。私が穴山です」
秋平「え?」
穴山、雑巾をバケツに戻すと、机の上に置いてあったファイルを開く。
穴山「なんかね、突然、掃除がしたくなってね」
女、背伸びをするように本を探している。
穴山「川村クン、申し訳ないんだけど、しばらくいいかな?」
女「ああ、ごめんなさい」
女、脚立を降りる。
穴山「(秋平に)彼女なかなか優秀な人でね、アドバタイズメントに一家言ある人だ。(女に)大学院の2年だったっけ?」
女「ええ、(秋平に)川村夏子です。よろしく」
秋平「あ、山本です。山本秋平です。どうも〕
夏子、部屋を出て行く。
穴山「(ファイルを見ながら)最低の成績だね。単位もギリギリ……。キミはボクの講義を取っている。それも皆勤賞だ。だけど不思議なことに今日初めて会う……。いい友達を持っているキミはいい奴かもしれないが、単位はあげられない」
秋平「……」
穴山「ボクはキミの卒論指導教授ということになっている。知ってた?」
秋平「えっ?あ、イヤ……」
穴山「あんた大学に何しに来てんの?で、就職は?」
秋平「あ、決まりました」
穴山「そういうことはシッカリしている。じゃ、なんとしても卒業しなくちゃね」
秋平「ハイ」
穴山「で、卒業できる?」
秋平「あ、そりゃもう、先生次第で」
穴山「バカを言っちゃいけない。キミ次第でしょ」
秋平「あ……」
穴山、ファイルを閉じて秋平を見詰める。
穴山「そこで一つ提案がある……」
秋平「……」
穴山「相撲の試合に出てみる気はないか?」
秋平「ハイ?」

7同・廊下
階段に座って、ミケランジェロの画集を見ながら夏子が待っている。浮かない顔の秋平が研究室から出てくる。
夏子「たった一日じゃない。たったの一日、まわしを締めて土俵に上がるだけじゃない」
不意を衝かれて驚く秋平。
夏子「何も本当の相撲部員になれっていうんじゃないんでしょ。男らしく一肌脱いであげたら」

8教立大学相撲部道場・表
やってくる秋平。
古い建物の窓を覗いてたじろぐ。
土俵で一人相撲を取っている男(青木富夫)が見えたのだ。
青木「見合った目から闘志がみなぎる、さあ時間一杯です。軍配かえった、青木、立合い頭から突っ込んだ、小錦かわった、さすが青木、小兵とはいえスピードには定評があります。おっと小錦の逆襲だ。いかんともしがたい体重差。青木このまま押し切られてしまうのか、おっと前に出て来る力を利用して、出たぞ必殺、内無双!」
思わず目があって、気まずい二人。

9同・中
秋平の顔が居心地悪そうに歪む。
青木「腰おとして」
秋平の尻にまわしが食い込み、腰にまわしがくるくると巻かれて行く。まわしを
締め上げる相撲部主将青木富夫。青木は痩せていて、どちらかというと貧弱な肉
体。
秋平「つぶれる−」
青木「しんぼ−、しんぼ−(辛抱、辛抱)」
秋平「ちょっと、やっぱり試合のときだけでいいですよ」
青木「まわしも締めたことがねえのにいきなり試合に出ようってのが甘いんだよ」
秋平「したくてするわけじゃないでしょ。相撲部がピンチだっていうから、いわばボランティアじゃないですか」
青木「ボランティアっつうのはな、なんの見返りもねえ奉止活動のことをいうんだよ。どういう条件だしたのか知らねえけど、とにかく試合が終わるまではお前は相撲部員なんだ。それまではオレのやり方に従ってもらうからな」
まわしを締め終わり、秋平のケツをピターンと叩く青木。
青木「ちょっと待ってろ」

青木は座敷に上がると、そのまま階段を駆け上がっていく。秋平は居心地悪そう
にまわしをさわってみたりしながら、改めて、道場を見回すが、数多くの表彰状
の中に穴山の名を見つけて感心する。
夏子「穴山さんが元学生横綱だったなんて驚いたでしょ」
秋平「……(ちょっと慌てる。まわし姿が恥ずかしい)」
土俵の横に立っている夏子、秋平を見てニツコリ。
夏子「一肌脱いだんだ」
秋平「一肌どころか」
夏子「そうよね。でもいいじゃない。ほんのちょっとの我慢で卒業が約束されるんだから」
秋平「え?(なんで知ってんの?)」
夏子「あたしね、相撲部の名誉マネージャーなの。名誉っていうのはいい加減ってことだけど」
秋平「ああ(分かったような分からないような)」
夏子「君のことは穴山さんから聞いたわ」
秋平「ああ」
夏子「学生相撲っていったって大したことないから安心しなさい。うちの相撲部は三部リーグのビリッケツ。つまりうちより弱い相撲部はこの世にないの。部員もね、ここ十五、六年はいたりいなかったり。三年位前までは他の運動部の人に頼んでなんとか試合にだけは出てたんだけど、ここ二年は皆嫌がって。今年団体戦に出られないと、潰れるかもしれないのよ。運動部としての実績ゼロだから」
秋平「ビリッケツって言ったって、相手はちゃんとした相撲部だろ。殺されちゃうよ」
夏子「だから安心しなさいって言ったでしょ。三部リーグはどこも似たような状況なの。相撲の稽古を真面目にやってる学生なんてほんの一握りなんだから。みんなあぼランティアみたいなもんよ。体格だってキミとそう大して違わないわ」
青木「おまたせ」
奥の階段を降りてくる浴衣姿の青木。
青木「あ、(緊張する)」
夏子「こんにちわ。穴山さんが心当たりの学生はすベて当たったから後は青木クンに任せるって。それから自分の部屋だけでもいいからちゃんと掃除するように、だって」
青木「ハィ」
夏子「この人ね、四年間ここに一人で住んでんの。何しろたった一人の正式な相撲部員だから」
秋平「ああ」
夏子「じゃ、がんばってね」
颯爽と歩いて行く後ろ姿をだらしなく見送る青木。
青木「行くぞ」
秋平「え?」
青木「部員の勧誘だよ。団体戦は五人制だから最低三人いねえと出れねえんだよ。だから後もう一人必要なんだ」
秋平「え?ちょっと待ってください。ふんどしのままで行くんですか?」
青木「ま・わ・し。当たり前だろ、相撲部なんだから」
秋平「先輩は?」
青木「相撲といえば、まわしに浴衣だ」

10教立大学キャンバス(数日後)
「相撲部員募集】という貼り紙をした机の前に座っている浴衣姿の青木とまわしの秋平。キャンパスの奥ではシーズンスポーッ愛好会の康夫と次郎と桃子が「夏休みスキューバーツアー」の募集中。
桃子「山本先輩どうしちゃったんですか」
康夫「相撲部員の勧誘だって」
桃子「シースポってお相撲もするんですか」
康夫「伝統を守る為だって、相撲部の」
青木、秋平を見る。
青木「お前いいかげんその帽子とれよ」
秋平「これがあるからこんなカッコでもなんとか耐えられるんでしょ」
青木と秋平の前をハイレグ姿のラウンドガールがプラカードを持って歩いて行く。プラカードには『教立大学プロレス研究会主催第十五回UWF新人プロレズ大会開催中。場所……第二グランド』と書かれている。
秋平「見にいきません?」
青木「(ハイレグに目を釘づけにされながらも)プロレスみたいなインチキ、オレは大嫌いだ」

11同・第二グランド
リングの上では本物のブロレスさながらに学生が必殺技を掛け合っている。

リングアナ「赤コーナー、キューティーハルオー」
赤コーナーでは金髪の鬘をつけたレオタード姿の男の子(山本春雄)が鉄柱にしがみつき喚いている。
春雄「なんでこんなカッコしなきゃいけないんだよ!」
春雄をなんとかリングにあげようとしているプロレス研究会のメンバー。
メンバー「レスラーにはな売りが必要なんだよ売りが。お前はな、こないだの会議でなニューハーフレスラーとして売り出すことに決定したんだから、しょうがね−だろ」
春雄「なにがニューハーフだよ。ボクは男になりたくて入ったんだからね」
夏子、そんな春雄を見て、小さく笑う。
レスラー「出てこい、おりゃあ、女みてえに泣いてんじゃねえよ」
リングの上では対戦相手のレスラーが、カモンカモンと春雄を手招きしている。ついに春堆は鬘を投げ捨て、メンバーを振り払うと、逆にリングに上がり、メチャクチャな勢いで相手に向かっていく。

12同・キャンバス
相変わらずブスッとした表情で机の前に座っている秋平と青木。
秋平「こうして座ってるだけで来るわけないじやないですか」
青木「やりたい奴がいればくる」
秋平「(バカバカしくって)信じらんない」
青木「オレは今年で大学八年目だ。しかも浪人している。オレは子供の頃から相撲が大好きだった。だけどこの体だ、やる勇気がなかった。中学でも高校でも。大学四年の時になんとなく学生相撲を見にいって、そこで穴山さんに誘われたんだ。結構小さい人もいたし、穴さんだってあの体で学生横綱になった。最後のチャンスだ。そう思った。それ以来相撲部を潰したくなくてずっと留年してきた。最近の奴らは相撲をバカにしている。そんな奴らに頭を下げて無理して相撲部を続けて行く必要はない」
秋平「まいったな。潰したくなくて勧誘に来てるんでしょ。もう三日もこうしてるだけじゃないですか。オレだったら相撲部なんてどうでもいいから、出られなかったら出られなかったでラッキーだなって思ってたら試合に出なきやダメだって穴山さんは言うし・・・」
その時、いかにも気の弱そうな一人のデブがラウンドガールとすれ違うように歩いて来た。
秋平「こうなったら勝手にやりますからね」
青木「(デブの方を見て)太ってるから相撲だっていうそういう発想がすでに相撲をバ
カにしてるっていう証拠なんだよ」
秋平、思わず立ち上がる。
青木「おい!おい!」
止めようとして後を追う青木。デブ、自分の方に早足でやってくる二人にうろたえて避けるように歩きはじめるが、緊張のあまり右手を前に出すと右足が、左手を前に出すと左足が出るという変則的な歩き方になる。青木、その変則的な歩き方を見て
青木「いけるかもしれない」
デブ、変則的な歩き方のまま後退りして転ぶ。慌ててデブを助け起こす秋平。
秋平「脅かしてごめん。実は頼みがあるんだ。わが校の相撲部をキミに救って欲しいんだ」
青木、土下座すると
青木「頼む。あさっての試合に出て下さい。じゃないと我が伝統ある教立大学相撲部は永遠に葬り去られてしまうんです。お願いします。たったの一日、まわしを締めて土俵に上がってくれるだけでいいんです。お願いします。」
見ているシースポのメンバーと他の学生たち。

13教立大学・相撲部道場(翌日)
さっきのデブ・田中にまわしを締めてやってる青木。見物している秋平。
青木「腰おとして」
田中「あっ、漬れる」
青木「辛抱、辛抱」
田中「試合の時だけじゃダメですか」
青木「まわしも締めたことがなくていきなり試合に出ようっていうのが甘いんだよ」
田中のまわしを締め終わると
青木「どうだ」
田中「あ、どうも……オシッコしてきていいですか」
青木「ああ。そこの戸開けてすぐだ」
田中、手と足をシンクロさせながら歩いて行く。
秋平「あっ、さっき、あいつを見て何か言ってましたよね。いけるかもしれない、とかなんとか」
青木「ああ。あいつ相撲の基本ができてるんだ」
青木、すり足をやってみせながら
青木「相撲の足の運びつうのはな、人間が歩くときと違って、左手を出す時左足を踏み出し、右手を出す時右足を踏み出すんだ」
田中、ドアを開け、顔を覗かせると
田中「あの−、するとき……どうすんのかなって……」
青木「まわしの横からヒョイだ(前袋のサイドをもちあげる格好をする)」
ヒョイと頭を下げてドアを締める田中。
秋平「あれただ運動神経鈍いだけじゃないのかな。小学生ん時必ずいたじゃないすか、行進の練習する時、緊張してああなっちゃうやつ(行進してみせる秋平)」
その時、戸が開き、夏子が入ってくる。
夏子「こっちよ。(青木と秋平に)待望の新入部員をスカウトしてきてあげたわよ」
と男の子を招き入れる。
秋平「春雄一」
春雄「にいちやん!」
夏子「なんだ名字が一緒だとは思ったけど兄弟だったの」
秋平「お前、相撲部に入んのか」
春雄「ウン」
秋平「なんで?プロレスは?」
春雄「あんなインチキやめたよ。相撲の方が男らしいし勝負の厳しさがある。それにフンドシってカッコいいじやない」
秋平「なにのんびりバカ言っちゃって」
青木「あのねフンドシじゃなくて、ま・わ,し、なの」
春雄「今ね、お相撲は凄い人気なんだ。貴花田とか若花田とか」
秋平「それはプロのお話。貧弱な肉体にフンドシいっちょで抱き合ってどこがカッコいんだよ」
青木「ま・わ,し、だっつうの」
春雄「じゃ、にいちゃんはなんで入ったの?」
秋平「え?」
夏子「単位の為よね」
春雄「なんだ、そんなことだと思った」
夏子「青木クン、彼にもフンドシ締めてあげて」
青木「(小さく)ま・わ,し」
と言いながら寂しそうな顔をしてまわしの掛けてあるところまで歩いて行く。
トイレから出てきて田中が、情けなさうに
田中「あの−、オシッコ、フンドシにかかっちゃって」
青木「まわしだって言ってんだよ!」
ついに大きな声で怒鳴ってしまう青木。

14学生相撲選手権東日本大会会場
相撲関係者しかいない閑散とした試合場。土俵のまわりで出場大学のメンバーが三々五々まわしをつけている。夏子、目を伏せていながらも、チラチラ目線があがる。
まわし姿の青木、秋平、田中、春雄を前に話している穴山。
穴山「内としては団体戦出場は三年ぶりになる。なんとかこれで相撲部も一命を取り留めるわけだが、まあキミ達は相撲の素人だ。今日出場する他の大学の選手もキミ達に毛が生えた程度の素人だ。だからムリはするな。素人同士がムリをすろとケガをする」
青木、緊張からポーッとしている。教立大学相撲部OB熊田寅雄が大声を出しながら近付いてくる。
熊田「おい、穴山、久々に四人出るって聞いて嬉しくなっちまってな。OB会にも集合かけたぞ。峰さんもつれてきちまった」
峰、春雄のオシリを一撫で。
春雄「ビックリした」
熊田「試合が終わったら今日はたらふくうまいもん食わしてやるからな。ちゃんこ料理屋でOB会だ。青木、祝勝会になるようにがんばってくれよな」
青白い顔をした青木がぎこちない。
熊田「なんだお前、もう緊張してんのか。しょうがねえな」

XXX

最初の対戦は北東学院大学。
放送委員「東、北東学院大学。西、教立大学」
審判「タオル置いて」
熊田「いきなり優勝候補とか」
峰「行け、教立!」
審判「礼」